お侍様 小劇場

    “もう片方の廻り道” (お侍 番外編 83)
 


今日は珍しくもお休みだという勘兵衛様で。
それなら、久蔵が学校から帰宅してから、
皆でどこぞかへ出掛けようかなんて。
久し振りの家族イベントを口にして、
手際よく家事を片付けかけていた七郎次だったのだが。
雑誌の表紙を飾ってた、
うら若い美人へ見とれていた御主様だったので…つい。

 『その女性
(にょしょう)がそんなにお好みですか?』

別に本気で妬いたんじゃあない。
ただ、リビングへと戻って来たこちらの気配にさえ気づかずに、
じいと見入っておいでだったのが珍しくって。
何がそんなにとの悪戯半分、
からかっただけのつもりだったのだけれど。

 「…勘兵衛様?」

偉そうに悋気など起こしてしまったことで、
困らせたのか、それとも怒らせてしまったか。
その傍らへと目顔で呼ばれ、
何かお話しでも?と素直に寄ったら、

 “…え?”

腕を取られたと思ったその途端、
あっと言う間にリビングの天と地が逆転し。
背中がソファーのクッションへ、
深々と抱きとめられたと同時に、
精悍な肢体がのしかかっての重石となっており。
視野をよぎったお顔が、だがすぐにも見えなくなって。
温みをともなって、こちらへと覆いかぶさる。

 「構ってほしいのだろ?」
 「あ…。///////」

耳元で囁く深みのあるお声へ、
ぞわりと総毛立ってしまったのは。
身の程知らずな物言いをしたこと、
今更ながらに恐れが起きたか、
それとも…
淫らにも思い出したものがあってのことか。

 まださほどの時刻も経ってはない
 昨夜の睦みに酔わされた身は、
 ほんの少しほど、その軌跡を
 仄めかされるようになぞられただけで、
 あっと言う間に
 甘い陶酔が込み上げてしまうから

二人しかいない場で、挑発したから煽られたのだと、
男臭いお顔を ややにんまりとほころばせ。
そちらもまた、あくまでのからかっておいでの御主へと、

 「……狡うございます。//////」

きっと気づいているのだろうに。
この身が刻む拍動もわななきも、
そんなこんなとなった大元の、至らぬ心が生んだ嫉妬へも。

 “……。////////”

関心をお向けだったのが若々しい少年だったからではなく、
自分ではない誰ぞかへ、この鳶色の眸が向くだけで、
心のどこかがちりりと焦がれる。
そんな立場ではないはずなのにと、
そんな身分不相応なと、なんて不埒であることかと、
ハッと胸を衝かれてしまうほどの深さにて。
後ろ暗くも醜い妬心が、生まれはしたに違いなく。
昔とちっとも変わってない自分だと、
こんな折にも思い知らされる。

 こうまで素晴らしい存在から、
 求められているのだという事実だけで、
 夢のようだと くらくらと目眩いがした。
 あのころの自分と、ちっとも…

雄々しく懐ろ深い、何へも屈せぬ人性と、
様々な死線を乗り越え、練り上げられた躯と、
研ぎ澄まされ鋭い所作こなす機敏さと。
いつだって自信にあふれ、
獅子のように気高い御主だったことへと、
ただただ憧れていた自分を。
物欲しそうだと見抜いてだろか、
間近へ引き寄せ、愛でてくださって。

 こんなに嬉しいことはなかったし、
 こんなに愛しい人もなかったけれど。

 ただ…

 それ以上の深間に嵌まってはいけないと
 誰か、何かが、囁いたから。

思えば、それから何年も何年も
勘兵衛様まで巻き込んで、
二つの独りぼっちを強いたのは、
臆病だった自分の我儘のせい。
そして、そんな形でも、
根気よく付き合ってくださった優しいお人。
今だって、そう。
生意気なことをつけつけと言うようになった傍仕え、
僭越なことをしてと
嫌悪でも涌いての、睨むようならともかくも、

 「…そのような顔をされては、
  こちらが一方的に苛
(さいな)んでいるようではないか。」

くすすと微笑って額をくっつけ、
いい子いい子と宥めるように、何度か瞬きして見せる。
何をとされたわけじゃあない、
言葉でも視線でも、何かしら揶揄されてもないけれど、

 “いじめておいでには違いありませぬ。”

大好きな匂いと温みと、
響きのいい声、充実した身の重み。
それらすべてを備えたあなた様。
それがこうまで間近にあっては、
落ち着けという方が無理な相談ではないですか。

 「……。////////」

何をどういえばという戸惑いからか。
青玻璃の双眸を頼りなく揺らめかせ、
ただただ真っ赤になってしまっている、
恋女房の含羞みへ。
ああ これを真に受けるのは、
ある意味、自惚れになってしまうのだろか。
だがだが、
ああまでそっくりだったからと見惚れていたのへさえ、
他愛なくも嫉妬を覗かした七郎次だったとあっては。

 “想われている、のだろか。”

そうと実感し、
しみじみ堪能しても いいんじゃないか。
ああでも、こんな風に困らせているようでは、
まだまだ要努力なんだろか、なんて。
柄にもなく、くすぐったい想いをしておいでの宗主様。


  どうでもいいけど、
  次男坊が戻ってくるまでに、
  どうか落ち着いてて下さいませよ?
(苦笑)




   〜どさくさ・どっとはらい〜  10.03.15.


  *ちょっと間が空きましたが、
   直前の、勘兵衛様からのお惚気話の
   “アンサー編”ということで。
(苦笑)
   そろそろ何か、
   お務めのお話とかも書いてみたいところですが、
   蜜月話を書く方が楽しいので悪しからずvv

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